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皮革技術センター [皮革全般]

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令和元年度研究評価部会報告

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令和元年度 東京都立皮革技術センター推進協議会・研究評価部会 報告

令和元年度第1回東京都立皮革技術センター推進協議会研究評価部会が、令和元年6月11日に開催された。平成30年度に終了した研究課題についての事後評価が行われた。

研究評価部会委員

外部より選任された委員(7名)

事後評価対象の研究テーマ

事後評価対象の研究テーマ(研究期間)

(1)硫化物を使用しない脱毛法の開発
(平成28年4月1日~平成31年3月31日)

(2)靴用材料の性状調査・甲材料と裏材料
(平成28年4月1日~平成31年3月31日)

研究テーマの事後評価結果等

硫化物を使用しない脱毛法の開発

(1) 研究の成果
 環境に配慮した革作り及び食品利用への用途拡大を目指し、豚皮を対象に、硫化物を使用せずに毛を溶解する脱毛法を検討した。その結果、高濃度水酸化ナトリウム溶液を用いることにより、パイロットスケールで皮を損傷せずに短時間で毛が溶解する脱毛処方を確立した。この時使用する水量はおよそ1/10に削減することができた。また、脱毛工程に塩化ナトリウムを併用することで、過剰なアルカリ膨潤を抑えることができた。界面活性剤の使用量を削減しても、効果的に脱脂が行われていることが確認された。従来法に比べ、脱毛排水のヨウ素消費量はおよそ1/100に削減された。試作革の物性は従来品とほぼ同等で、靴用革(裏革)の規格を満たしていた。得られたゼラチンのゼリー強度は156 g(3種)で、従来品(21 g、5種未満)より優れていた。これらの結果から、本研究により確立した脱毛法は、皮革製造用としても、食品原料製造用としても有効であると考えられる。

(2) 評価
部会としてA(良い)と評価する。硫化物を使用せず、また水を使用せず無浴による脱毛法が開発できたことは、節水と環境負荷を軽減し、安全な製革及びコラーゲン材料製造に向けて、大いに価値あると言え、実用化が期待される。

靴用材料の性状調査・甲材料と裏材料

(1) 研究の成果
天然皮革及び合成素材で作られた甲材料、裏材料、甲材料と裏材料を合わせた複合材料について、その性状データを収集し、天然皮革と合成素材の性状の違いの解析を試みた。その結果、甲材料については、曲げ丸み指数、可塑性において天然皮革の優位性が示された。また、甲材料、裏材料とも、天然皮革は合成素材に比べて耐摩耗性に優れており、吸湿発熱性が非常に大きく、冬季や寒冷地において靴着用者に暖かさを提供できる。甲材料と裏材料を重ね合わせた試料の熱伝導率は、単体の数値より小さな数値となり、重ね合わせによって熱が伝わりにくくなる傾向が示された。熱を伝えやすい天然皮革であっても、天然皮革同士を重ね合わせて靴にすると熱を逃がしにくくなる。天然皮革を重ね合わせた試料では、吸湿発熱量の解析より吸湿度と発熱量において高い数値を示した。この組み合わせは足のムレを解消し、靴内環境を快適に整える特性を持つ。サーモグラフィーの熱画像解析により、天然皮革は吸湿だけでなく吸水によっても発熱する様子を観察できた。天然皮革は人体から放出される水蒸気と汗の両方により発熱する特性を有していることが明らかになり、靴着用者に暖かさを提供できる。これらの知見は、靴・履物関連業界の産業振興や都民サービス向上に繋がると考えられる。

(2) 評価
部会としてA(良い)と評価する。多数の靴の甲材料及び裏材料を収集し、その性能を解析し、天然皮革は、耐摩耗性や表面摩擦係数、履き心地に関連する特性において、合成素材より優れていることを明らかにしたことは、大いに価値あるものと言える。